里山の自然、文化を次代に継承
豊かな森と水、温泉に育まれた里山文化が息づく松之山温泉(新潟県十日町市)では、9軒の温泉旅館が「環境保全と文化の伝承者」となり、「持続可能なエコビレッジ」を掲げて地域づくりを進めている。観光、交流の力を生かし、地域に綿々と受け継がれてきた伝統行事や景観、食文化を次代に残そうとしている。
谷あいに9軒の宿が肩を寄せ合う ※画像提供=(一社)十日町市観光協会
自慢の温泉は、700~800年前、傷ついたタカが毎日同じ場所に舞い降りるのを見た木こりが発見したと伝わる。古くからの湯治場で、草津、有馬と並ぶ「日本三大薬湯」の一つ。1千万年以上前に地中に閉じ込められた海水が湧き出る「化石海水温泉」。泉質は塩化物泉で、殺菌、温浴の効果が高いとされる。温泉旅館以外にも、共同浴場「鷹の湯」などで体験できる。
温泉の恵みと共に、地元で大切にされている伝統行事がある。小正月行事の「むこ投げ・すみ塗り」だ。むこ投げは毎年1月15日、前年に結婚したむこをかつぎ、薬師堂の境内から雪の斜面へ投げ落とす。すみ塗りは、灰と雪を混ぜたものを「おめでとう」と言いながら顔に塗り合う。少々荒っぽい豪雪地帯の奇祭だが、無病息災、家業繁栄への願いが込められている。今では外国人を含む観光客が見学に訪れ、むこの一般募集も行われているが、地域の祭りとしての本質を見失わないよう伝統が大事にされている。
小正月の伝統行事「むこ投げ」を地域で受け継ぐ
里山の景観保全にも力を入れている。丘陵部に広がる森林は、大正末期、木炭にするため全て伐採されたが、翌年春、一斉に芽生え、約3千本の立ち姿の美しいブナの森林になった。「美人林」と呼ばれ、散策が楽しめる。美人林では、毎年七夕の頃、野外ダイニングイベントも開催される。温泉旅館の料理人、松之山温泉にゆかりのある有名シェフが腕をふるい、里山の自然や食文化をテーマにした料理を提供する。
緑が映える夏の美人林
里山の景観の中に現代アート作品を展示する「大地の芸術祭」は、松之山温泉を含む越後妻有地域で3年に1度開催されている。松之山温泉には、2018年の展示作品、スペインの芸術家、サンティアゴ・シエラ氏の「ブラックシンボル」が今も設置され、人気スポットになっている。作品のモチーフは、スペインのシェリー酒の老舗オズボーン社の黒い雄牛の像。作品をきっかけにスペインやシェリー酒をテーマにした交流にも発展している。「大地の芸術祭」は今年が開催年で、7月13日に開幕、11月10日まで開催される。
The post 【にっぽんの温泉100選特集】今、注目の温泉地 新潟県・松之山温泉 first appeared on 観光経済新聞.