(10)ダイレクトリクルーティング(続き)
(ⅲ)ソーシャルリクルーティング
ソーシャルメディア―つまりSNSを使って行う採用活動である。前回取り上げた「オファー」や「スカウト」と同じく、ダイレクトマーケティングの一つと位置付けられるが、これらと全く異なるのは、基本的に仲介業者を通さず、自社独自で行う点である。従って、外に支払う仲介費用なども、一部を除いて基本的に発生しない。
利用するメディアは、おなじみのX(旧ツイッター)やLINE、インスタグラム、ユーチューブ、フェイスブック、あるいはLinkedIn(リンクトイン)といったものである。メディアごとにそれぞれ特徴があるが、それを解説することはこの場の趣旨ではないので省く。
ソーシャルメディアに共通するメリットとして、それぞれの特性を生かして自由な情報発信(画像、動画、文章、リンクなど)を組み立てることができる。また、非常に多くの未知の人と「つながる可能性」があり、場合によっては「拡散する期待」も持てる(もっともこれは「炎上」という逆作用もあり得るので注意が必要だが)。
また、説明会や面談などと違って、肩ひじ張らないフランクな(良くも悪くも「ゆるい」)コミュニケーションが可能なので、より突っ込んだ疑問に答えたり、相手の性格や常識度といったものを推し測ったりすることができるという利点もある。
ただし…有名企業ならともかく、そもそもこの方法で採用が実現するとは、安易に考えない方がよい。よほど関心を呼ぶコンテンツでもない限り、普通の旅館やホテルからの発信が求職者の目に留まることはまず期待できない。見に来てもらうためのエサをどうまくかが、まず大きな課題だ。さらに訪れてもらえたとしても、そこから採用にこぎつけるまでの道のりはかなり遠い。一般的な求人方法に比べて時間がかかることは認識しておく必要がある。現実には、他の求人対策と組み合わせて、関係づくりや相互の理解を深めることを目的に生かすのが、あり得るべき対応と言えよう。
運用する際のポイントとしては、メディアにもよるが、#(ハッシュタグ)で関連するキーワードにひもづけしておくこと、一定の発信頻度を保ってサイトを「放置状態」にしないこと、第三者からの投稿に対してきちんと返信すること、企業イメージの失墜につながるような発言には十分注意することなどが挙げられる。いずれにしても、思うほど簡単なものではない。やるなら、人事にも精通した者が関わる必要がある。
(11)ヘッドハンティング
現役として第一線で活躍している人材を中心に、転職ニーズのある・なしに関わらず直接スカウトする活動で、分類の仕方によってはダイレクトリクルーティングのひとつとしても位置付けられる。企業が求めるハイレベルの人材―経営層や高度な職能を有する人などを、「ヘッドハンター」と呼ばれる専門の業者が探し出して、転籍を働きかける。旅館で用いる場面はあまりないと思われるが、料理長やシステム系人材などではあり得るだろう。ちなみに、昔からある「引き抜き」は、企業が直接行うものとしてこれとは区別されている。
(リョケン代表取締役社長)
(観光経済新聞2024年12月16日号掲載コラム)
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